大判例

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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)14898号 判決

原告

足立産業株式会社

右代表者代表取締役

尾畑清爾

原告

総武都市開発株式会社

右代表者代表取締役

小宮山義孝

右原告両名訴訟代理人弁護士

鈴木圭一郎

鈴木和雄

河合弘之

井上智治

竹内康二

西村國彦

栗宇一樹

堀裕一

青木秀茂

安田修

長尾節之

早乙女芳司

被告

日本保証マンション株式会社

右代表者代表取締役

林隆吉

右訴訟代理人弁護士

安達幸次郎

主文

一  被告会社の昭和六〇年一〇月二八日に開催された臨時株主総会における佐光孝次を監査役に選任する旨の決議を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告足立産業株式会社は被告会社の株式二万株を有する株主であり、原告総武都市開発株式会社は被告会社の株式二万六〇〇〇株を有する株主である。

2  被告会社は、昭和六〇年一〇月二八日に開催された臨時株主総会(以下「本件総会」という。)において佐光孝次を監査役に選任する旨の決議(以下「本件決議」という。)をした。

3  しかしながら、本件決議には次のような取消事由がある。

本件決議の決議の方法は、著しく不公正であつた。すなわち、原告足立産業株式会社の代理人である同社総務部長守屋慶光及び原告総武都市開発株式会社の代理人である同社営業部課長越野久一が本件総会に出席するため、受付者に対して委任状を示し、会場への入場方を求めたところ、受付者井上洋治郎は、「代理人は株主でなければならないと定款に定められている」として右両名の入場を拒否した。このため、万一を考え補佐役として守屋に同道していた弁護士長尾節之が井上他受付にいた者に対し、「右のような定款の定めであつても、株主が法人である場合には、会社の使用人が会社のため株主総会に出席することが許される」旨を判例を引用して説明し、入場方を求めたが、井上は、「その意思がない」と返答して右両名の入場を拒否した。このように、本件決議は、正当の理由がないのに、代理人により出席を求めた原告両名を締め出して行われたものであり、その決議の方法は、著しく不公正であつた。

4  ところで、本件紛争には次のような背景がある。

すなわち被告会社の昭和四五年一月八日現在の株主構成は、株式会社太平洋クラブ二万八〇〇〇株、原告総武都市開発株式会社二万六〇〇〇株、原告足立産業株式会社二万株、株式会社池田山ハイツ六〇〇〇株以上合計八万株であり、原告両名の持株比率は過半数を超える五七・五パーセントに達していたところ、被告会社は、昭和六〇年五月一一日付で、商法二八〇条ノ三ノ二の新株発行事項の公示手続を履践することなく抜き打ち的に八万株の新株発行を行い、右新株全部を株式会社池田山ハイツに引き受けさせて被告会社の支配権を奪つてしまつた。右新株発行は無効であるから、原告両名は、被告会社に対して新株発行無効の訴え(御庁昭和六〇年(ワ)第一三四八七号)を提起し、現在係争中である。以上のとおり、原告両名と被告会社とは、右違法な新株発行を契機として会社の支配権をめぐり紛争の渦中にあり、本件入場拒否もその一環として被告会社により敢行されたものである。

5  よつて、原告両名は、被告会社に対し、本件決議の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否及び被告会社の主張

1  請求原因1及び2記載の事実は認める。

2  同3記載の事実中、原告両名がそれぞれ代理人を立てて本件総会に出席しようとしたこと、被告会社の定款中に、「株主が代理人を以つて議決権を行使しようとする場合には、その委任する代理人は当会社の株主であることを要する。ただし、その代理人は代理権を証する書面を会社に提出しなければならない。」旨の定めがあること及び被告会社が右定款の規定を理由に株主でない原告両名の代理人の入場を辞退していただいたことは認めるが、その余の事実は否認する。

3  同4記載の事実は否認する。

4  被告会社が原告両名の代理人を本件総会に出席させなかつた理由は、次のとおりである。

本件紛争の背景には、平和相互銀行の内紛にからんだ一連の紛争が存在している。ところで、被告会社の監査役は佐藤正一名であつたところ、同人は、被告会社の決算月(決算期は毎年二月一日から翌年一〇月三一日まで)を前にして昭和六〇年一〇月一日付で突然辞任届を被告会社に送付してきた。佐藤正は、原告足立産業株式会社の取締役であると同時に、同原告の出資に係る新東京観光株式会社及び山裕恒産株式会社の代表取締役であり、原告ら小宮山一族の関連会社の中枢に位置する人間であるから、佐藤正がこのような時機に突然辞任するということ自体、被告会社の混乱を意図したものと推測できる。しかして、決算を月内に予定する限り、臨時株主総会を開催して後任の監査役を早急に選任することが急務であつたところ、原告らの使用人が本件総会に出席すれば、総会が攪乱され、会社の利益が害されるおそれがあつたので、定款の定めにより原告ら代理人の入場を拒否したものである。

以上のとおり、被告会社が原告両名の代理人を本件総会に出席させなかつたことについては正当の理由があつたから、本件決議には原告ら主張のような瑕疵はない。

第三  証拠〈省略〉

理由

一請求原因1及び2記載の事実は、当事者間に争いがない。

そこで、本件決議に原告ら主張のような取消事由があるかどうかについて判断する。

請求原因3記載の事実中、原告両名がそれぞれ代理人を立てて本件総会に出席しようとしたこと及び被告会社の定款中に、「株主が代理人を以つて議決権を行使しようとする場合には、その委任する代理人は当会社の株主であることを要する。

ただし、その代理人は代理権を証する書面を会社に提出しなければならない。」旨の定めがあることは、当事者間に争いがない。

〈証拠〉並びに前記当事者間に争いのない事実によれば、原告足立産業株式会社の総務部長守尾慶光及び原告総武都市開発株式会社の営業部課長越野久一が本件総会の開会時間である午後一時の五分前頃、本件総会場の受付で、それぞれ委任状を示して本件総会へ出席したい旨を申し出たところ、被告会社の井上洋治郎が受付のテーブルの上に置かれた被告会社の定款を指差して、「当社の定款では代理人は株主でなければならないと定められておりますので、株主以外の方の出席は御遠慮願つております」と答えたこと、このため、守尾を補佐すべく同道してきた長尾弁護士が井上に対して、法人株主の場合には、必ずしも代表者が出席する必要はないこと、守尾氏、越野氏はそれぞれ足立産業の総務部長と総武都市開発の営業部課長という役職にあること及びいずれも原告両名の委任状を所持していることを説明したが、井上は翻意しなかつたこと、長尾弁護士は、既に本件総会の開会時間を過ぎていたため、守屋氏及び越野氏の委任状を読み上げた上、井上に対し、最終的に右両名を本件総会場へ入場させる意思がないかどうかを確認したところ、井上は、「ありません」と回答したこと、この間、被告会社は、右両名を本件総会場へ入場させないまま本件総会を開催し、本件決議を行つたことが認められ、他に右認定を履すに足りる証拠はない。

ところで、会社が定款をもつて株主総会における議決権行使の代理人の資格を当該会社の株主に限る旨定めた場合においても、当該会社の株主である株式会社がその従業員を代理人として株主総会に出席させて議決権を行使させることは、そのことによつて株主総会が攪乱され、会社の利益が害されるおそれがあるなどの特段の事情のない限り、右定款の規定に反しないと解すべきところ(最判昭和五一年一二月二四日)、右事実によれば、被告会社は、右のような定款の定めを根拠に、原告らの従業員が原告らの代理人として本件総会に出席して議決権を行使することを拒んだものと認められる。そして、本件においては、原告らの従業員が本件総会に出席して議決権を行使することにより本件総会が攪乱され、被告会社の利益が害されるおそれが具体的にあつたとは未だ認められない。そうだとすると、本件決議は、原告らの議決権行使の機会を事実上奪つてされたものと認められるから、その決議の方法は著しく不公正であつたという外ない。そして、右の瑕疵は、その態様自体からして重大であると認められるから、本件請求を裁量により棄却することは相当でなく、本件決議は取消しを免れない。

二よつて、原告らの請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官高柳輝雄)

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